CMづくりという戦場でお世話になったKさんが
天に召された。

27才、転職して右も左もわからない代理店のCMセクションで、
まるで無防備な若輩戦士を心強くサポートしてくれた
制作会社の大将。

腕白なオトナといった印象の、
鬼軍曹というよりも、みんなに愛される大将。
Kさんという苗字よりも、Hさんという
ファーストネームで呼ばれていましたね。

いいものを作ることにまっすぐな方だった。

大将ご自身と直接現場でやりあうというよりも、
大将の、熱いそしてまだ荒削りな戦士たちと15秒、30秒の
戦場で共に戦った。

長く終わりの見えない戦場も多かったが、
ゴールに向かって1秒、1秒を作り上げていった。

そして大将は撮影や仮編集のポイントで
僕らの戦場に応援しにくる。

的確なアドバイスと笑顔を残して戦場を去っていったものだ。



去年バッタリと新橋の駅で久しぶりにすれちがった。

僕はすでに当時の会社を去り、彼はそのまま制作会社の
取締役で、仕事でのつながりはなくなってしまっていた。
お互い目で挨拶する程度でその場で分かれてしまったのが
心残り。

ホッとする笑顔、優しい大将の目は相変わらずだった。


斎場に飾られた写真もまたベストスマイルだった。



既に転職していた当時の彼の戦士たち。
僕にとっては会社は違えど、
代理店と制作会社を超えたなつかしい戦友たち。

自分が勤めていた会社の、当時右も左もわからない中、
一緒にもがいていた同世代の戦友たち。

彼の会社からすればライバル会社の取締役にして
いいものを作ることに関しては同士の方々たち。

そして彼の今の部下にあたる若々しい戦士たち。


微笑みかけるベストスマイルがみんなの胸を打つ。



BGMは沖縄の音楽だった。

そしてお別れの時はサザンオールスターズ。

心憎い演出はあなたの戦士たちがきちっと仕切ったものだろう。



色々と大切なことをたくさん教わったのに、
なにひとつ、恩返しができなかった。

せめて新橋の再会でお話できていれば。。。

僕らにできる恩返しはいいものを作ること。

あれほどまっすぐにいい仕事をしてきた方には
そんな戦地での成果をみていただくしかない。

背筋をのばして。


CMの世界と僕らの心にぽっかりとあいた大きな穴は
いい仕事で埋め尽くします。

ベストスマイルとサザンの曲を胸に刻んで。



帰りに久しぶりに駒沢公園を通り過ぎ、
クルマを降りた。

空に向かってまっすぐ伸びる塔。
今までは気にもとめなかったのに。

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気持ちを上に向けるには
この風景も心に刻んでおきたいと思った。

まっすぐにいいものを作る。
自分なりの約束をなにか目に見えるもので確認したかったから。

まっすぐに、上に向かって、信じているものにこだわる。

そんなシンプルなことが日々、なかなかできないもの。

大切なことをあらためて教えてくれたような気がして
しばらく塔を眺めていた。



ありがとうございます。

あなたの教えはこれからも大切にします。