会社の近くの通りを歩いていると
走り去る自転車が1台見えた。

その隣でもう1台、倒れている自転車とその傍らにおじいさん。

おじいさんの荷台には重そうな荷物が
ゴム製のロープでくくり付けてある。

「倒しといてそのまま行っちゃうんだからなあ。」と
呟くおじいさんには、重くて自転車が立て直せない。

ちょっと手伝ってあげた。

「ありがとう。」と喜んでもらった。

自分の話を美談にしようとしてるのではなくて、
ふと差し延べる手のことを思い出したので書いてみる。

もう10年以上も前。

ある映像の仕事で香港に音楽を作りに行っていた。

ミュージシャンの名前はAndy。
オーストラリアからの移民だ。
奥さんは香港のチャイニーズ。外資系の代理店勤務。

日本から来たから・・という話題づくりなのか、
「僕はサカモト(=坂本龍一)が好きだよ。」と人懐っこく話してくれる
ナイーブとパッションをあわせもったいいヤツ。
おまけに金髪の長髪で結構カッコイイ。けど気取ってない。

打ち合わせやセッション、レコーディングが終わると
色々おいしいレストランとかに連れて行ってもらった。
クルマはカルマンギアの67年(だったかな)のオープンカー。

ある夜、雨あがり間際、小雨が残っていた。
Andyのクルマで一緒にKennedyRoadを昇っていくと
一台のクルマがハザードをつけて道路の真中で立ち往生していた。

すかさずカルマンギアをとめ、「ちょっと待ってて」と降りていくAndy。
クルマはさっぱり動かないらしい。僕も降りてみた。

Andyは日本でいうJAFを携帯で呼び出し、故障車の状況を伝えた。

クルマが邪魔になるので、小雨の中、押して移動することに。

僕も手伝ったけど、日本だったらどうだろう。
Andyからするとクライアントを乗せていたら通り過ぎてしまうのではないか。
「うわー。大変ですねー。」とか言いながら。
外国で、雨の中、見ず知らずの人の故障車を押すのを手伝ってもらうだろうか。
(僕が迷惑に感じたというわけではなく、一般的にどうだっただろう、という話。)

「そこに困っている人がいるから、助けるだけのこと。」
そんなシンプルな行動が何の迷いもなくできる人。

この一件から、自分の中で何かが変わったような気がする。

まだまだ全然足りない。全てを自分ができると思わない。

Andyの行動を目の当たりにして、教わった。
そのほんの少しでもマネ?できれば。
なんといってもそれが絵になってカッコイイ!
(僕は絵にならないけど。^^;)

別に見返りとかいらないんだ。

映画「Pay it Forward(ペイ・フォワード)」は
そんな気持ちがよみがえった。
映画だから話は確かに出来すぎだけど、
「PayBackじゃなくて、PayForward」。

ありがとう。という気持ちを他の人につなげていけば、
映画の少年が言うように「世界が平和になるのに。」
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それは究極の理想としても、
そんな可能性を感じさせてくれたあの夜のAndyに
感謝している。

今は香港を去って、LAにいるらしいが、
連絡先はわからない。

Thanks,Andy.
あなたの行動は今も日本で
ほんの少しだけど役に立っているよ。